義肢装具学のための知識
モーメントについて
北海道科学大学 保健医療学部 義肢装具学科(昆 恵介)

 モーメントとは
 モーメントは義肢装具を設計あるいは、評価する際に重要な概念となってくる。とはいっても、微分やら積分やらをしろいっているわけではない。

まずモーメントについて簡単に説明していく。モーメントとは物体が回転しようとする力(回転力)のことであり、トルクともいう。義肢装具では慣例的にモーメントといっているので、以後はモーメントに統一する。回転力って何?と思うかもしれないけど、ここは我慢してモーメントの単位に注目して欲しい。



 

テキスト ボックス: モーメント理解のための注意点
1.	回転力=モーメントまたはトルクともいう
2.	モーメント(M)=力(N)×距離(m)
3.	モーメントの単位は(Nm)で表す
4.	単位に気をつける(1cmは0.01mとする)









N
(ニュートン)は前節で説明している力である。mは回転中心からの距離であるから、力×距離が支点まわりに働く回転力となる。右上図は第1のテコであるが、左右の回転力がともに19.6Nmと等しくなり、どちらにも回転せずに静止している。






 関節モーメントとは?

 モーメントは日本語で回転力として表され,回転中心から作用する力点までの距離で計算することは説明した.したがって,モーメント(M),力(N),距離(m)とすれば,

 M=Nm

という式で示すことができる.

動作解析分野における関節モーメントの定義は非常に混乱しやすいが,関節モーメントは内部モーメントのことを示し,外力の影響によって回転させられる回転力(以下:外部モーメント)に対抗しようとする生体内部で働いている抵抗力である.すわなち筋や靱帯、骨や皮膚抵抗と考えてよいのである.このような筋・靱帯による内部モーメントのことを関節モーメントという.

足関節モーメントについて

 静止立位時の足関節の回転中心を外果中心とすると,重心線から回転中心までの距離がわかり,その者の体重がわかれば,力も既知のはずである.したがって外部モーメントの影響により下腿は前傾し,足関節は背屈させられるのである.しかし静止立位状態を維持するために何らかの内部の力が働ければならず,外部モーメントと釣り合う力で内部モーメントが働いているのである.この場合は足関節の底屈筋群である下腿三頭筋などが働いていると考えられる.

膝関節モーメントについて

 静止立位時の膝関節の回転中心を膝蓋骨中心とすると,重心線は膝関節の前方を通過している.したがって外部モーメントの影響により膝関節は伸展させられるのである.しかし静止立位状態を維持するために何らかの内部の力が働ければならず,外部モーメントと釣り合う力で内部モーメントが働いているのである.この場合は膝関節の伸展制限機構である前十字靱帯・後十字靱帯などにより過伸展になることを防止しているので,膝屈筋群であるハムストリングスなどはほとんど活動していない.

股関節モーメントについて

 静止立位時の股関節の回転中心を大腿骨頭中心とすると,重心線は一般的に股関節の後方を通過している.(ほとん近傍を通過するので,立ち方によっては逆になることもある)したがって外部モーメントの影響により股関節は伸展させられるのである.しかし静止立位状態を維持するために何らかの内部の力が働ければならず,外部モーメントと釣り合う力で内部モーメントが働いているのである.この場合は股関節の屈筋群である腸腰筋などが活動している.

 

 

 

体幹前屈モーメントについて

 静止立位時の体幹の前後屈の回転中心を仙腸関節中心とすると,重心線は一般的に仙腸関節の前方を通過している.したがって外部モーメントの影響により体幹は前屈させられるのである.しかし静止立位状態を維持するために何らかの内部の力が働ければならず,外部モーメントと釣り合う力で内部モーメントが働いているのである.この場合は体幹の後屈筋群である脊柱起立筋群などが活動している.

  抗重力筋について

 静止立位時には重心線は仙腸関節の前方,股関節の後方,膝関節の前方,足関節の前方を追加しており,外部モーメントは上述したとおりである.これらの外部モーメントに釣り合うために関節モーメントが存在し,内部モーメントである下腿三頭筋,腸腰筋,脊柱起立筋などが活動し,外部モーメントによる回転力に対して釣り合おうと頑張っているのである.これが抗重力筋とよばれるゆえんである.抗重力筋のなかでも最も頑張っているのが,関節中心から重心線までの距離が一番遠い足関節が最も頑張っているのである.

 

参考・引用文献

1)柳田理科雄/空想科学漫画読本3初版第1刷,p46-47,大口製本印刷株式会社,2003

2)中村隆一ほか/基礎運動学第6,p290-308,医歯薬出版,2005 

3)為近和彦/大学生なら知っておきたい物理の基本「力学編」,p38-50,中経出版,2005 

4)義肢装具学会/義肢学,p253,医歯薬出版,2004

5)SI採用促進委員会編 新計量法とともに歩むSI化ガイドブック,日本規格協会,2005

6)小泉袈裟勝,山本弘/単位のおはなし,日本規格協会,2002

7)橋元淳一郎/橋元の物理をはじめからていねいに 大学受験物理 力学編,ナガセ 2004

8)橋元淳一郎 /橋元流解法の大原則(1),学研,1992

9)朝永振一郎 /物理学とは何だろうか(上),岩波新書,1979

10)     和田純夫・大上雅史・根本和昭 /単位がわかると物理がわかる,ベレ出版,2002

11)     朝永振一郎 /物理学とは何だろうか(下),岩波新書,1979

12)     有馬朗人 /基礎物理学(上),学術図書出版社,1995

13)     中島雅美/PTOT基礎から学ぶ運動学ノート(解答集付),医歯薬出版、2004


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